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東京高等裁判所 平成2年(ネ)4557号 判決

控訴人 国

代理人 三代川俊一郎 稲嶺博之 ほか四名

被控訴人 今村富士夫 ほか一名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文と同旨

2  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりである。なお、関係者等の略称は、原判決の例による。

(控訴人の主張)

次のとおり、仮定抗弁を追加する。

仮に控訴人が保障金支払義務を負うとした場合には、被控訴人らは、平成元年二月二五日田中から本件事故による損害賠償の一部として一〇〇万円の支払を受け、また、清水市から健康保険法に基づく葬祭料二万円の給付を受けたから、これらを保障金限度額である二五〇〇万円から控除すべきである。

(控訴人の主張に対する被控訴人らの認否)

被控訴人らが控訴人主張の一〇〇万円及び葬祭料二万円を受領したことは、認める。

三 証拠関係 〈略〉

理由

一  請求原因1の事実(本件自己の発生及び哲也の死亡)、及び請求原因2のうち、本件事故当時本件車両について自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の契約が締結されていなかったことは、当事者間に争いがない。そして、被控訴人らが亡哲也の実父母であることは明らかである。

二  そこで、被控訴人らの控訴人に対する保障金請求権の存否について検討する。

1  〈証拠略〉によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件車両は、もと深津が所有していたところ、昭和六三年一〇月初め、いわゆる暴走族グループに属していたことのある望月(当時一八歳くらい)は、深津が本件車両の買主を探しているという話を聞き、本件車両を買った上、整備して他に転売しようと考えて、深津に買いたいと連絡した。望月の中学の後輩で右グループのオートバイに同乗したりしていた亡哲也(昭和四五年一〇月二日生。当時一七歳)もこの話を聞き付けて、望月に対し、自分が深津から買いたいと言ったが、望月は望月自身が買うことにした。

なお、亡哲也は、原動機付自転車の運転免許はもっていたが、自動二輪車の運転免許は取得していなかった。

また、本件車両は、自賠責保険の契約が締結されておらず、また自動車検査証の有効期間が終了していたか終了間近のものであった。

(二)  望月は、一〇月九日ころ、清水市興津のスーパーマーケット「ヤオハン」の前で、深津と会って交渉した結果、本件車両を代金二万円で買い受ける話がまとまったが、代金二万円は、転売先からの支払を受けてから支払うことにした。

(三)  そして、望月は、右「ヤオハン」の前で深津から本件車両の引渡しを受け、これを運転して自宅に帰ろうとしたが、その途中、前記のとおり本件車両を求める希望をもっていた後輩の亡哲也に本件車両を見せるため、亡哲也の家に立ち寄った。望月は、亡哲也の父である被控訴人今村富士夫方の倉庫に、使わなくなった中古の自動二輪車が置いてあることを知っていたので、亡哲也と相談の上、右中古の自動二輪車の部品を利用して本件車両を改造することとし、本件車両を右倉庫に運び込んだのち、亡哲也とともに、本件車両のマフラー、シート、ハンドルを取り替えるなどの改造を行った。この改造中にも、亡哲也は望月に対し、本件車両を売ってほしいなどと言っていた。改造した本件車両は、そのまま運転すると、高い音を出して警察に目を付けられるおそれがあったので、望月は、亡哲也に保管を依頼して本件車両を右倉庫に置いたまま帰宅したが、本件車両の鍵は望月が持ち帰った。

(四)  亡哲也は、本件車両がオートバイ仲間の間で売りに出されたものであり、そのまますぐに運行が可能なように手続が済んでいるかどうか分からないことは認識していたが、ナンバープレートがついていたことから、前記の暴走族グループに属していたことのある友人の田中(昭和四五年一〇月三一日生。事故当時一六歳)を誘って本件車両でドライブをしようと考え、同年一〇月一三日夜、望月に電話して、田中に運転させてドライブに行きたいから鍵を貸してほしいと頼んだ。望月は、亡哲也が運転免許を有していないのにオートバイへの興味から無免許運転をすることをおそれたので、一度はこれを断ったが、結局鍵を貸すことにし、間もなく取りに来た望月の後輩の片平きよしに鍵を持たせて亡哲也に届けさせた。

(五)  他方、亡哲也は、同夜、静岡市にいた田中に電話して今から来るように誘ったが、田中は他に約束があったので、誘いを断ったところ、亡哲也は、「単車がある。ナンバーもあるし、車検もある。」と言って何度も執拗に誘ったので、田中も最後に誘いを受ける気持になった。同夜午後一〇時ころ、亡哲也の家に着いた田中に対し、亡哲也は本件車両を見せてドライブに行くことにし、田中が運転し、亡哲也が後部座席に乗って、清水市内を走りまわった。

(六)  田中は、本件事故現場の交差点手前で、歩道を歩行中の女性に気をとられ、前方注視を怠り、交差点の信号が直進禁止になっているのを見落として交差点内に進入した結果、対向して交差点を右折しようとした稲木利孝運転の普通乗用車に衝突し、さらにコンクリート製の電柱に衝突した。その結果、後部座席に乗っていた亡哲也は、振り落とされて死亡した。

なお、右の運行中、亡哲也が田中に対し、走行速度や運転方法等につき具体的な指示をしたかどうかは、はっきりしない。

2  自賠責保険契約の締結されていないいわゆる無保険車の運行により生命又は身体を害された者が自賠法七二条一項後段の規定により国に保障金の請求をするためには、右被害者が当該自動車の運行供用者に対し同法三条による賠償請求権を有する場合でなければならないから、運行供用者に対する関係において同条の「他人」に当たらないとされる被害者は右保障金を請求することができないというべきである。

(一)  前記の事実関係からすると、本件車両は、深津から望月が買い受けて一応その所有権を取得したとみられ、亡哲也が所有権を取得したとは認めがたい。しかしながら、望月の所有といっても、望月は深津にまだ代金を支払っていなかったのであり、他に転売する目的で一時的、暫定的に所有していたにすぎない。

他方、亡哲也は、前記のとおり、望月とともに本件車両を改造し、これを買い受ける希望を有し、望月から保管を委ねられて、その父所有の車庫に本件車両を置いておくことにしたものである。そして、本件車両の鍵は望月が持ち帰っており、本件事故当日までの二、三日間は亡哲也が本件車両を運転したことはなかったが、望月と亡哲也の関係からして、亡哲也が鍵を入手することがさして難しくなかったことは、本件の事実からもうかがわれるところである。右のように本件車両の保管に関しては、亡哲也は相当の支配を有するものであったということができる。

(二)  次に、本件事故当日の運行についてみると、前記のとおり、亡哲也は、本件車両をそのまますぐに運行の用に供してよいのかどうか分からないことを認識しながら、本件車両でドライブしたいと思い立ち、望月に頼んで鍵を借り受けるとともに、乗り気でない田中を執拗に誘って呼び寄せ、免許を有しない自分に代わって運転をさせたものであり、運行の開始が亡哲也の意思と主導によるものであることは明らかである。また、運行開始後の走行について亡哲也が田中に具体的指示を与えたかどうかは不明であるにしても、亡哲也の意向によって運転を支配することができない関係であったとは認められず、本件事故当時は田中の運転によるドライブを楽しんでいたものである。

他方、田中は、自動二輪車の運転免許を有し、本件事故当時実際に本件車両を運転していたものであって、本件事故の直接の責任者でもあるが、本件車両の運行によって享受する利益及び運行に対する支配という観点からすると、田中は、本件車両の保有・管理について何らの関係ももたず、単に当日亡哲也から強く頼まれて亡哲也の希望のまま、同人を同乗させて本件車両を運転し、これによって田中自身も一緒にドライブを楽しんだというにとどまるものである。

(三)  これらを総合して判断すると、亡哲也と田中の関係では、亡哲也が免許を有せず、また、走行について田中に具体的指示をしていたものでないとしても、亡哲也が本件車両の運行によって享受する利益及び運行に対する支配は、運転していた田中のそれに比し優るとも劣らなかったものというべきであって、このような運行利益及び運行支配を有する亡哲也は、田中との関係では、自賠法三条の他人であることを主張することができず、田中に対して同条による損害賠償請求権を有しないとしなければならない。

したがって、亡哲也及び被控訴人らは、控訴人に対し、自賠法七二条一項の保障金の支払を請求することができないというべきである。

三  以上の次第で、被控訴人らの請求はいずれも失当として棄却すべきものである。

よって、本件控訴は理由があるから、被控訴人らの請求を認容した原判決を取り消して、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 岩井俊 小林正明)

【参考】 第一審(静岡地裁 平成二年(ワ)第七八号 平成二年一一月三〇日判決)

主文

一 被告は、原告今村富士夫に対し金一四五五万三三六八円、原告斉藤はつみに対し金一〇四四万六六三二円を各支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文同旨

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 訴外今村哲也(以下「亡哲也」という。)は、昭和六二年一〇月一三日午後一〇時五〇分頃、訴外田中勝己(以下「田中」という。)運転の自動二輪車(以下「本件車両」という。)に同乗し、静岡県清水市八坂南町八番三号地先の交差点を走行中、訴外稲木利孝運転の普通乗用自動車が同交差点を右折してきて両車両が衝突したため、その衝撃によりはね飛ばされ、同日頸椎骨折により死亡した。

2 田中は、本件車両を自己のため運行の用に供していたので、自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるが、本件車両については、自動車損害賠償責任保険契約が締結されていないため、原告らは、同法七二条一項により被告に対し政府の自動車損害賠償保障事業による損害てん補金(以下「保障金」という。)を請求することができる。

3 原告らは、右田中外一名に対する本件事故による損害賠償請求訴訟を、静岡地方裁判所昭和六三年(ワ)第八四号をもつて提起したところ、同裁判所は、昭和六三年一〇月二五日、「被告田中勝己は、原告今村富士夫に対し金一六三八万八八七九円、原告斉藤はつみに対し金一一〇四万八八七九万円及び右各金員に対する昭和六二年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え」なる旨の判決を言い渡し、この判決は、そのころ確定した。

これに基づき、田中は、原告今村に対し、平成元年二月二五日、金一〇〇万円を支払った。

4 よつて、被告に対し、政令で定める限度において、原告今村富士夫は金一四五五万三三六八円、原告斉藤はつみは金一〇四四万六六三二円の各保障金の支払いを求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、本件事故当時、本件車両については、自動車損害賠償責任保険契約が締結されていなかつたことは認め、その余は否認ないし争う。

3 同3の事実のうち、原告ら主張のとおりの判決の言い渡しがあり、これがそのころ確定したことは認め、その余は不知。

4 同4の主張は争う。

三 抗弁

1 本件車両は、訴外深津直也(以下「深津」という。)が所有していたところ、昭和六三年一〇月始めの本件事故の直前、亡哲也が訴外望月勝元(以下「望月」という。)を介して深津からこれを買い受けて所有するに至つた。

2 望月は、深津から本件車両の引渡を受けて亡哲也の父である原告今村富士夫方の倉庫に運び込み、亡哲也とともに本件車両の整備、改造を行なつた後、亡哲也が本件車両を右倉庫に保管していたが、その鍵については、望月が持ち帰った。

亡哲也は、自動二輪車の運転免許を有していなかつたところ、友人の田中と本件車両でのドライブを企図し、事故当日である同月一三日午後八時頃、望月に対し電話で、鍵の貸与を依頼したが断わられたため、ドライブに行くのではなく本件車両の整備のために鍵を必要としている旨説得し、望月も、亡哲也が絶対に本件車両を乗り回さない約束のもとにこれに応じ、同人の後輩である片平きよしを介して、亡哲也に右鍵を交付した。

しかるに、亡哲也は、田中運転の本件車両に同乗して、ドライブに出掛け、本件事故に至つた。

3 亡哲也が田中に対して自賠法三条の責任を問うためには、亡哲也が同条にいう「他人」であることが前提となるが、この他人とは、自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者、運転補助者を除くそれ返外(編注「返外」は「以外」の誤りか)の者とされているところ、右1ないし2の事実からすれば、亡哲也は、本件車両の運行供用者であつて他人とは認められないから、同人から自賠法七二条一項に基づく保障金請求権を取得したことを前提とする原告らの請求は認められない。

四 抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は否認する。

2 抗弁2の事実は否認する。

3 抗弁3は争う。

第三証拠 〈略〉

理由

一 請求原因1の事実、及び請求原因2の事実中、本件事故当時、本件車両について自動車損害賠償責任保険契約が締結されていなかつたことは、当事者間に争いはない。

二 そこで、請求原因2及び抗弁事実について判断する。

1 自賠法三条により運行供用者が損害賠償責任を負うのは、その自動車の運行によつて「他人」の生命又は身体を害したときであり、そこにいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者、運転補助者を除くそれ以外のものをいうのであるが、当該自動車に複数の運行供用者が存在し、その中のある者が当該自動車に同乗中に被害を受けた場合であつても、右被害を受けた運行供用者の具体的運行に対する支配の程度、態様が、賠償義務者とされた他の運行供用者のそれに比し、間接的、潜在的、抽象的であるときには、直接的な運行供用者との関係では、他人性を阻却されることがなく、同条による「他人」であることを主張し得るものと解するのが相当である。

2 これを本件についてみるに、〈証拠略〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件車両は、深津が所有していたところ、昭和六三年一〇月始め、望月は、深津が本件車両の買主を探している旨話を聞き、これを整備のうえ他に転売することを企図して、深津に購入する旨連絡した。

(二) そこで、望月は、同月九日頃、静岡県清水市興津のスーパーマーケット「ヤオハン」前において、深津と会つて交渉した結果、本件車両を代金二万円で買受ける話しがまとまつたが、代金二万円は、転売先から代金の支払いを受けて支払うことにした。

(三) そして、望月は、右「ヤオハン」前にて深津から本件車両の引渡を受け、これを運転して自宅に帰ろうとしたが途中、友人の亡哲也に本件車両を見せるため、亡哲也の家に立ち寄つた。ところが、望月は、亡哲也の父である原告今村富士夫方の倉庫には、同じ型の中古の自動二輪車が置いてあることを知つていたので、亡哲也と相談のうえ、本件車両を改造することとし、本件車両を右倉庫に運び込んだのち、本件車両のマフラー、シート、ハンドルを取り替えるなどの改造を亡哲也に手伝わせて行なつたがそのまま本件車両を運転して帰宅することになると、高い音を出して警察に目を付けられるおそれがあつたため、亡哲也に保管を依頼してそのまま右倉庫に置いたまま帰宅したが、その鍵については、自らが持ち帰つた。

(四) 亡哲也は、自動二輪車の運転免許を有していなかつたが、友人の田中と本件車両によるドライブを企図し、本件事故当日である同月一三日午後八時頃、望月に対し電話で、田中と本件車両でドライブに行きたいから、鍵を貸してほしい旨依頼した。望月は、亡哲也が運転免許を有していないにもかかわらずオートバイへの興味から無免許運転を敢行することをおそれたため、一度はこれを断わつたが、電話を交替した田中が自ら運転する旨確約したので、これに応じ、同人の後輩である片平きよしを介して、亡哲也に右鍵を交付した。

(五) 他方、田中は、亡哲也からドライブに行こうとの電話があつたので、原付自転車に乗つて亡哲也方を訪ねたが、亡哲也から本件車両を見せられ、「この車で遊びに行こう。」と誘われたので、亡哲也を本件車両の後部座席に同乗させてドライブに出掛け、路上を走行するうち本件事故に至つた。

右認定に反する乙第二号証の二の記載部分は、〈証拠略〉に照らし容易に信用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3 以上認定の事実によると、本件車両の所有者は望月であること、田中が本件車両を自己のために運行の用に供していたことが認められる。

ついで、亡哲也の他人性につき判断するに、前記認定の事実によれば、亡哲也は、本件車両の所有者ではないとはいえ、本件車両を自己の父である原告今村富士夫の倉庫に保管し、事故当日においては、本件車両の所有者である望月に連絡して所有者である望月から本件車両と鍵を借り出したうえ、田中を誘つて、同人に運転を委ね、自らは後部座席に同乗して、ともにドライブを楽しんでいたものというべきであるから、田中とともに本件車両の運行による利益を享受し、これを支配していたものであつて、田中とともに本件車両の運行について共同の運行供用者であつたとみるべき余地があるといわなければならない。

しかしながら、他方、前記各証拠を総合すれば、(一) 亡哲也は、自動二輪車の免許を有せず、その運転にも習熟しているとは認められないこと、(二) 望月が本件車両を右倉庫に運び込んで以降、本件車両の鍵は望月が所持し、亡哲也が本件車両を本件事故当日まで使用したことはないと認められること、(三) 所有者である望月からの亡哲也に対する本件車両の貸与は一時的かつ暫定的なものであつたこと、(四) 本件車両の後部に同乗していた亡哲也が、田中に対し、ドライブに行く道路、方向を指示したり、走行速度や運転方法について具体的な指図をしていたとは認められないこと、(五) なお、本件事故時、亡哲也が満一七歳、田中が満一八歳であつたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はないから、被害者である亡哲也と運転者である田中との本件車両の具体的運行における運行支配及び運行利益の程度態様を比較すると、亡哲也の運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、田中のそれはより直接的、顕在的、具体的であることが明らかであり、亡哲也は、田中に対し、自賠法三条にいう「他人」であることを主張することができるものというべきである。

4 したがつて、被告の抗弁は、採用することができない。

三 請求原因3の事実中、原告らが、右田中他一名に対する本件事故による損害賠償請求訴訟を、静岡地方裁判所昭和六三年(ワ)第八四号をもつて提起したところ、同裁判所は、昭和六三年一〇月二五日、「被告田中勝己は、原告今村富士夫に対し金一六三八万八八七九円、原告斉藤はつみに対し金一一〇四万八八七九円及び右各金員に対する昭和六二年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え」なる旨の判決を言い渡し、この判決がそのころ確定したことは当事者間に争いがなく、右事実と〈証拠略〉によれば、本件事故により、原告今村富士夫は金一六三八万八八七九円、原告斉藤はつみは金一一〇四万八八七九円を下らない損害を被つたものと認められる。

四 よつて、被告に対し、原告今村富士夫が金一四五五万三三六八円、原告斉藤はつみが金一〇四四万六六三二円の保障金の支払いを求める本訴請求は、いずれも理由があるからこれを正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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